2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

#8:恐怖

#8






ラウンジの化粧室で会った男は、器用な舌先で私が口から零した液体を舐め上げていく。


唇の周りは舌先を小刻みに震わすように…


そして、首まで垂れた液体は舌全体を使って、ねっとりと絡めとっていった。




「…あっ…」




思わず私の唇の隙間から声が漏れると、私を見下ろす男はニヤリと口角を上げた。




「ほんと、アンタっていやらしいな」




耳元で囁かれた男の声に、また私の体はビクンと跳ねる…




「だから、アイツらに狙われるんだよ」




そう言いながらも尚、男の舌は私の肌をしつこいくらいに、いやらしく舐めまわしていく。


不意に肌を吸い上げられて、私はまた歓喜の声を漏らした。


ダメ…感じちゃ…


頭の中で私は必死に自分の体をコントロールしようとする。


でも、歓喜の波が押し寄せる度に、さっきまで襲ってきた頭の痛みが薄れて来るのが分かって、私はその波に身を任せようとしてしまう。


男が与えてくる刺激は、まるで一種の麻薬のように私の体を侵食していくようだった。


まだ、侵されていない部分が小さな悲鳴をあげる。




『本当の私は、こんなにいやらしい私じゃない――』




しかし、その声は言葉にはならず、湿った吐息に変わっていく。


私に残された抵抗は、ただ、吐息が漏れる唇をギュッと噛み締めることだけだった。




「…アンタ、我慢してんの?」




私の唇を噛み締める姿を見て、男は笑い声を上げた。


狭く汚らしい部屋中に響き渡った声は、私の頭の中にも響いて、残り少なかった私の意識を覚醒させた。


殴りたい。


私の脳が手のひらに司令を出す前に、既に動き出した自分の右腕が男の頬を目掛け、振り落とされる。


パチーン…


渇いた音が静まり返った部屋に響いて、私は閉じていた目をゆっくりと開いた。




「…残念!当たったのは俺の手のひら」




男は意地悪そうにそう言うと、重なった手のひらを握り締め、更にはもう片方の私の手を素早く取ると抵抗できないように頭の上で組み伏した。


男の腕に徐々に力が込められる。


片手で押さえ込まれた両方の手首が、ギリギリと音を立てるように締め上げられ、歓喜の声とは違う苦痛の声が私の口から漏れた。




「ほんのちょっとだけ、慰めてあげようと思っただけだったのに…」




男はそう言うと私が身に纏っていたブラウスのボタンを、片手で器用に一つずつ外していく。


男の顔がいつの間にか表情を持たなくなった。




「や…やめて…お願い…」




震え出した私の口から出た言葉は、懇願だった。




「ヤダね…」




表情を持たなくなった男の声も低く冷たい声に変わっていた。






ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村




コメント

非公開コメント

プロフィール

Ryo

Author:Ryo
大人の恋愛小説を書いています。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR