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#69:堕落(その11)

#69






私の口から沙織の名前が出て、川原は一瞬、躊躇したようだった。


その隙を狙って一気に玄関ドアを閉めようとしたが、やはり相手は男性だ。


沙織の名前の余韻が消えたのか、再び川原の手に力がこもり、私の形勢はあっと言う間に不利になった。


ドアノブを握り締めていた私は、川原の手によって開かれたドアの力で、体ごと室外へと放り出されそうになる。


バランスを失った体は、いつの間にか川原の腕に抱きとめられた。


川原の腕の中で私の体は意思を持たないまま、開け放たれたドアをくぐった。


床に体ごと放り出されると同時に、手馴れた手つきでドアが締められ鍵が掛けられた。




「川原さん…何の真似…?」




室内に入ったことで安心したのか、さっきまでの川原の恐ろしいくらい形相は、笑みを湛えた穏やかなものに変わっていた。


しかし、私にはその川原の変化がとてつもなく怖いものに感じ、思わず床に倒れたまま後ずさりしてしまうほどだった。




「まひる、怖がらなくていいよ。やっと二人っきりになれたんだから」




川原は優しくそう言うと光沢の掛かった黒の革靴をゆっくりと脱いだ。


足元に落ちていた私の携帯電話を拾い上げて、通話画面を確認している。


しかし、留衣子の携帯電話をアドレスに登録していなかったせいか、電話番号だけが映し出された画面を見た川原は、怪訝な顔つきになって勝手に通話を終わらせてしまったのだった。




「あっ…」




その動作を見た私が漏らした声に、川原が敏感に反応して鋭い眼光を上から投げかけてきた。


その目の鋭さに、私はまた怖気づいた表情を川原に見せてしまった。


裏切った川原を責めていい立場の筈なのに、川原の息巻いた態度は、私にその瞬間を与えてはくれなかった。




「…誰と電話してたの?まさか…アイツ?」




川原の言っている「アイツ」とはサトシのことだろう…


やはりあの日、サトシがこのマンションに来た理由に勘づいていたのだろうか?


それとも、こっそりマンションに入っていく私達の姿を、川原の目は捉えていたのだろうか?


どちらにしても、もう川原の頭の中にはサトシへの疑心でいっぱいになっているようだった。




「まひる…どうなんだよ!」




川原の手が私の纏った薄手のTシャツに伸びて、引き裂かんばかりの勢いで掴み掛られる。


その時、はだけたTシャツから縛られたロープの痕を覗かせたのを川原は見逃さなかった。






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