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#6:葛藤

#6






私は両隣に座る男たちから、逃れるように化粧室へと向かった。


自分が想像していた以上に酔いが回っていて、踏み出す一歩一歩が雲の上を歩いているようにふわふわとしていた。


バランスを失いそうな体に力を込めて、私はテーブルの並ぶ通路を何とか歩ききった。


ラウンジの隅に薄暗いライトが当てられ、化粧室の文字が何とか確認できた。


狭い通路の奥にある化粧室に向かう途中、背の高い男性とすれ違う。


細い通路が私の目には歪んで見えて、真っ直ぐに歩いている筈の私の体はとうとう、男性の体にぶつかってしまった。




「す、すみません」




そう言って頭を下げた私に強烈な吐き気が襲ってきて、相手の反応も確認しないまま私は化粧室へと飛び込んだ。


頭が割れるように痛かった…


吐物が喉を通る時、胃が締め付けられるほど痛くなって、焼けるようにヒリヒリと痛みが走った。


それでも止まらない嘔吐は、私の体を憔悴させた。


暫くの間、床にうずくまっていたが、もう私の体から水分など一滴も出ない状態で、次第に足先や手のひらに痺れが走っていく。


脱水症状を引き起こしてしまったことに気付いた時には、後の祭りだった。


私は痺れる足で何とか立ち上がり、ドアを一つ隔てた化粧室の洗面所へと向かおうとしてよろめいた。


すべてのお酒を吐き出しても、細胞の隅々まで行き渡ったアルコールは、感覚を私から奪ったままだった。


ようやくドアを開けると、洗面所の前に見知らぬ男性が腕組みしたまま、壁にもたれ掛かっている姿が私の目に飛び込んでくる。


思わず声を上げそうになったが、素早くその男性の手に口を塞がれ、呻き声だけが男性の手のひらと私の口の隙間から零れた。




「まだ、狙われてるよ」




男性が唇を私の耳元に近づけて低いくぐもった声で告げる。


男性の意図することが分からず、私は目だけを見開いて塞がれた唇を必死で動かした。




「一緒に飲んでた二人組、あんたがここから出てくるのを今か今かと待ち構えてるよ」




男性の言葉に私の背筋にゾクリとした震えが走り、不覚にもさっきの男の指使いが、私の下半身の疼きを思い出させた。


まだ、細胞にはアルコールがたっぷり染み込んでいて、私の体が疼くのはそのせいだとぼんやりする頭で身勝手な解釈をする私がいた。




「どうする?逃げる?…それとも、喰われに行く?」




意地悪そうに問う男性が、一体誰なのか…


私の味方なのか…


指先の痺れが酷くなって、私の意識が朦朧としていく中…


「逃げるよ」そんな声が聞こえたような気がした。






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