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#2:誘惑の目

#2







何故か、引き寄せられるように入ったそのラウンジには、黒服のバーテンダーがカウンター内に2人いて、「いらっしゃいませ」と落ち着いた声で私を迎え入れた。


いくつかのテーブル席と、10人ほどは座れるカウンターが目に入り、私は迷わずカウンター席へと足を進めた。




「お一人様ですか?」




黒服のバーテンダーがにこやかな笑顔を向けて問い掛けてきた。


何時もだったら気にならないその言葉が、今の私には耳について、思わず「連れはいません」と冷たく返事をしてしまう。


そんな私の言葉を気に留める風でもなく、相変わらずバーテンダーはにこやかな笑顔のまま「こちらへどうぞ」と席へと促してくれる。


その姿が鼻についたが、きっと、こういう客には慣れているのだと思い直して、私は席へと着いた。


「何になさいますか?」と言いかけたバーテンダーの声を遮るようにジントニックを注文する。


私の勢いに押されたのか、一瞬、バーテンダーが驚いた顔を見せたが、すぐに平静を装い「ジントニックですね、かしこまりました」と丁寧な口調で注文を繰り返した。


店内では生ピアノ演奏が行われていて、所々に座る客達は、奏でられるメロディにうっとりとした表情を浮かべていた。


カウンター席に着いてから、傷心の私には場違いだったと後悔したが、今さら注文を取り消すことも出来ず、悶々とした時間を過ごすこととなった。


ようやくカウンターテーブルにコースターが置かれ、注文したジントニックが目の前に差し出された時、私の視界がぼんやりと滲み始めた。


彼が好きだったお酒…


そう思った瞬間に、今まで張り詰めていた糸がプツリと切れて、私の頬に一筋の涙が零れた。


堰を切ったように溢れ出しそうな涙を必死で堪え、気持ちを紛らわすように目の前のジントニックを一気に飲み干す。


頭の芯がカッと熱くなり、泣きそうだった気持ちが嘘のように遠ざかっていく感覚に陥った。


そうだ…


私、お酒に弱いんだった…


トロンとした目でバーテンダーにお代わりを告げた時、そんなことを思ったが、もう後の祭りだった。


気付けば、私は何杯のお酒を飲み干したのだろう…


いつの間にか、私の両隣に見知らぬ男たちがいて、私の酔った姿を舐めるような目で見つめていた。






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大人の恋愛小説を書いています。

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