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#23:サトシ(その6)

#23







サトシとのセックスで火照った体は、熱のせいだと留衣子は信じきっているようだった。


欲望を貪りあって潤んだ目も熱のせいだと思われていた。




「ねぇ、サトシ。今日はお店に出る日なの?もし、出る日じゃなかったら、彼女を病院まで連れていってくれない?」




私の様子を心配した留衣子が突然、サトシにそんな提案をした。


私は慌てて「大丈夫です」と首を横に振りながら、その提案を断った。


しかし、私の言葉は聞き入れられず、サトシはこの店の店長であるもう一人のバーテンダーの所へ向かった。




「桜木部長、私なら大丈夫ですから」




私は尚も留衣子に断りを入れたが、よほど心配してくれていたのだろう。


留衣子は首を縦に振ろうとはしなかった。


会社での留衣子はもっとクールなイメージだった。


男性だろうが女性だろうが関係なく、優しい言葉を掛ける姿を見ることがなかった。


自分の能力を活かして出世する留衣子の姿は女子社員の憧れ的。


しかし、結婚には興味がなく、一人で生きていこうとする姿に共感を持つ女子社員はごく僅かなんじゃないかと勝手ながら思っていた。


そんな風に感じていた留衣子が、今、私の体のことを心配してくれている。


それが嬉しくもあり、意外な一面でもあった。




「店長、明日でもいいって…この人の病院、送ってやれるよ」




サトシがそう言った途端、留衣子の顔がパッと明るい笑顔になり、カウンターに立つ店長に「ありがとう」と言って指を唇に充てるとキスを飛ばした。




「あ〜、良かった。しっかり先生に診て貰って…私は今から会議があるから、あなたが体調悪いこと、川原君にも伝えておくわね。確か、彼も会議に顔を出す筈だから」



留衣子はそう言い残すと、サトシを連れてお店のドアの方に向かって行ってしまった。


私が二人の背中を見送っていると、突然、童顔のバーテンダーが視界に写り込んできた。




「大丈夫ですか?さっき、ここで寝てた時も相当、うなされてましたからね」




そう言ってくれる彼の言葉は嬉しかったが、彼の影に隠れてしまった二人の様子が気になって、私は上の空に返事をした。


化粧室での情事を終えた後のサトシの言葉が、やはり頭から離れなかった。


留衣子のヒモ…


留衣子に飼われている…


そう言ったサトシのことが気になって仕方なかった。




「ねぇ、あのサトシって人、ここで働いてるの?」




私は思わず童顔のバーテンダーに問い掛けた。


バーテンダーは首を横に振ると、隣のフロアを指さした。


薄暗い店内の奥に、グランドピアノが置かれていることに初めて気付く。




「安嶋さんはここでピアノ弾いてるんですよ。顔もあの通りイケメンだから、ファンも多くて…留衣子さんもその一人なんですけどね。…あ、ファンとはちょっと違うか」




私はバーテンダーの言葉を背中で聞きながら、その空間に惹かれるように目を離せずにいた。


薄暗いステージで黒光りするピアノは、何故か物悲しく私の瞳に映り、サトシの姿と重なって見えたのだった。






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