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#59:堕落

#59






私は上半身の自由を奪われたまま、サトシと共にマンションを後にした。


体を動かすたびにロープが肌に食い込んで、小さな悲鳴をあげそうになった。


そんな私に気付いて、サトシは出来るだけゆっくりと歩いて行こうとしてくれていたが、焦る気持ちも見え隠れしているのが私にも分かった。


灰皿で殴られた上條が、目を覚まして追いかけてくるかも知れない…


秘密の部屋で短い呻き声をあげた上條の姿が思い出されて、コートを羽織っただけの体がゾクリと震えた。


マンションの地下にある駐車場に着くと、既にタクシーが待機していた。


薄暗い地下でハーザードランプが、眩しいくらいに点滅している。


タクシーに近づくとタイミングよくドアが開き、後部座席に体を滑り込ませるように私達は車に乗り込んだ。




「お客さん、どちらまで?」




タクシーの運転手がルームミラー越しに問いかけてくる。


マンションを出ることばかりで、行き先を考えていなかった私達は、思わず顔を見合わせてしまった。




「…ジュンのとこでも行くかな…」




サトシがピアノを弾くラウンジの幼さを残したバーテンダーの顔が、私の頭を過ぎった。


どんなにサトシを慕っている彼でも、私のこんな格好を見たら不審に思うだろう。


それに、あのラウンジは留衣子の息が掛かった店でもある。


どこで留衣子の耳に入るか分からない、そんな綱渡りのようなことはしたくなかった。




「私の…マンションに行きましょう。あの部屋みたいに広くはないけど」




私の提案にサトシは返事を躊躇っていたが、きっと、思いつく人達の殆どは留衣子との接点があったのだろう…


暫く考え込んだサトシだったが、ようやく私の提案を呑んでくれた。


早々にタクシーの運転手に私のマンションの住所を告げる。


運転手は料金メーターのボタンを押すと、地下駐車場から地上へと車を走らせたのだった。




タクシーが走り始めて20分…


目的地であるマンションの入り口にタクシーが停った。


サトシのマンションで起きた出来事に、私達は疲れきっていたのか、運転手が困り果てるくらい眠ってしまった。


静かに走る車の震動が心地好くて、あっと言う間に眠りに堕ちてしまったのだ。


慌ててタクシーから降りた私は、人目につかない場所に身を寄せて、サトシがタクシーから降りてくるのを待った。


両手を縛られたまま、サイズの合っていないコートを羽織った私の姿を、誰かに見られるのはどうしても避けたかった。


サトシが支払いを済ませ、タクシーのドアから降り立った時、嫌な予感は的中した。


私のマンションの玄関から出て来たのは、紛れもなく私を捨てた川原隆二だった。






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