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#96:堕天使(その15)

#96






「いや!来ないで!…来ないで!!」




まひるの声が部屋中に響き渡った…


何もないベッドの上で、まひるは幻覚を見ているのか、伸びた手は空を切った。


何度も何度も、怯える手は空を切り、見えない何かに言葉を投げ掛ける。


まひるが金切り声を出し始めた時は、どうしていいのか分からなかった…


まひるの背中を摩り、落ち着かせようと試みたが、俺の手は何度もまひるのありったけの力で振り払われた。


まひるが元に戻ろうとしているのか…


また、違う形で壊れかけているのか…


見守る俺には、いったいどちらの状態なのか、半信半疑だった。


まひるは、それから2日間、眠る以外はその状態を、ただひたすら繰り返した。


俺の姿を目にすると余計に怯えるまひるに、極力顔が見えないように細心の注意を払いながら、見守った。


2日経つと、喚いていた声は鎮まり、空を切っていた手も、肩から力が抜けたように、ベッドの上でダランとしていた。


幻覚が見えなくなったまひるの頬は、少し赤みが点したように見えて、俺から見える横顔は以前のまひるを彷彿とさせた。




「まひる…」




俺の声に反応して、ベッドに座ったままのまひるが振り返った。


目と目が合って、俺は満面の笑みでまひるに笑い掛ける。


そんな俺の顔を覗き込むように見たまひるは、きっと笑いかけてくれるんだろうと、タカをくくっていた。


しかし、まひるの顔から親しみを込めた笑みは浮かんでこなかった。


ただ、不思議そうな顔で俺を見つめるだけだった…




「…コーヒー、飲む?」




不思議な感覚の沈黙を破りたくて、俺はまひるにそう言った。


コクリと頷くまひるを確認すると、俺はキッチンにコーヒーを淹れに行った。


淹れたてのコーヒーのいい香りが、あっと言う間に部屋に充満する。


まるで、何とも言えない空気を塗り替えるかのように、部屋の空気は和んだかのように思えた。


マグカップに淹れたてのコーヒーを注いで、まひるへと手渡した。


少し遠慮気味に「ありがとう」と言って、まひるはマグカップを受け取った。




「どう?気分は…」




「ええ…気分は悪くないんだけど…」




まひるはそう呟くと、コーヒーに口も付けないまま俺の方を見つめる。


俺は何かを言いたそうなまひるに、小さく首を傾げてみる。


そんな俺を見て、まひるがゆっくりと口を開いた。




「…あなたが助けてくれたんですか?…私のこと…」




「…え?」




「見ず知らずの人に…助けて頂いたみたいで…申し訳ありません」




「まひる…俺のこと…」




まひるの言葉に返事をしようとして、言葉に詰まる…


まひるの瞳に映る俺は、まひるには初めて会う人になっていた。







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